わたしの本棚

ピアノにひたむきに向き合う才能|羊と鋼の森【book records】

実咲
実咲
こんにちは、実咲(@twi_339)です

「book records」は、読書が趣味のわたしが、読んだ本を紹介する連載記事。

2冊目は「羊と鋼の森」です。

本の概要

著者は宮下奈都さん。
第154回直木賞候補作、第13回本屋大賞大賞受賞作です。

2018年には山崎賢人さん主演で映画化されました。

あらすじ

外村は高校時代、体育館に置かれたピアノを調律師が調律するのを目の当たりにする。
そのことがきっかけで調律師を志し、技術を学び楽器店に就職する。

調律に魅せられた外村が、調律師として人として成長する姿を描く。

感想【ネタバレあり】

ここからは若干のネタバレを含む内容もありますのでご注意ください!

美しい比喩

言葉一つ一つが繊細で、とても美しいと感じました。

音楽は明確な言葉で言い表すことが難しいです。
例えば「あたたかな音」と言っても、人によってそれは違いますよね。

なので、作中には比喩表現が多く用いられます。
ピアノの音、外村の心情、その多くを表す比喩が静かで優しい言葉ばかりでした。

比喩が多いと想像が掻き立てられます。
言葉で言い表すことは難しい、だからこそピアノの音色を読者が想像し、頭の中で奏でることができる。

実咲
実咲
読んでいる人それぞれの頭の中で、違う音色が流れていると思うと、少し面白いですね

無色透明な外村青年

主人公でありながら、彼自身のことは多く語られません。

北海道の田舎で育ったこと。
森がすぐそばにあったこと。
彼は特に個性のない青年として描かれます。

巻末の解説を読んでいて気づいたのですが、外村は作中で下の名前が出てきません。
外見の特徴なども出てきません。
これらがさらに、無色透明な青年として印象付きやすくなっているのだと思います。

実咲
実咲
個性のある他の登場人物との対比を感じる気がします

若いからこその苦悩

外村の迷いや悩みには共感する部分も多かったです。

才能とは何か。努力とは何か。
いい調律とは何か。誰のために調律をするのか。
すぐに答えが出せるものではありません。

他の調律師の柳、秋野、尊敬する板鳥。
それぞれ違う答えを持っています。

自分の調律を、まるで先の見えない森を進むように探す。
少しずつだけど成長し、森を進む外村の答えは、物語の終盤で掴むことができたのだと思います。

実咲
実咲
焦って答えを見つけようとするのは駄目だな、と改めて気づきました

才能と努力

外村は新人であるが故に、技術は他の調律師に劣ります。
何度か調律のキャンセルを受けてしまうことも。

外村は自分の才能に悩みます。
毎日焦り、怖がり、多くを吸収しようとします。
そんな外村に向けた、柳の言葉がわたしはすごく好きだと思いました。

才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れられない執念とか、闘志とか、そういうものと似てる何か。
−本文より抜粋

外村は才能をもっていたんじゃないでしょうか。
好きだからこその才能を。

実咲
実咲
「麦本三歩の好きなもの」でも思いましたが、好きの気持ちは強いんですね

双子の姉妹の存在

作中で数人、調律を頼むお客さんが登場します。
その中でも、外村の調律に大きく影響を与えたのは双子の姉妹の和音と由仁。

外見は見分けがつかないほど似ている。でも奏でる音は全く違う。
派手さはないけれど、粒が揃っている姉の和音の音。
華やかで、本番に強い妹の由仁の音。
外村は和音の音に魅了されます。

由仁は突然病気のため、ピアノが弾けなくなります。
お互いを意識する双子という関係だからこそ、和音も一時はピアノを離れてしまう。
ですが、双子はピアノとともに生きることを決めるのです。

ラストは胸が熱くなりました。
外村の一番近い調律師である柳の結婚披露パーティー。
いいピアニストとして出演する和音。
そして、そのピアノを調律する外村。

実咲
実咲
双子と外村が歩き続けることになる「羊と鋼の森」は美しく、善い音色が響くのだろうと思いました

まとめ

調律師の話ではあるけれど、1人の青年の成長の物語だと思いました。

特に大きな出来事は起こりません。
毎日、調律師として働く中で起こる出来事、人との会話の中で外村は成長していきます。
ゆるやかな物語の流れが、とても心地よかったです。

ラストのピアノの音色が、とても気になるし、聴いてみたい。
映画でも聴けるんでしょうか?機会があったら観てみようと思います。